各診療科紹介
当科の紹介
岡波総合病院消化器内科は、内科部門より独立する形で2021年6月に発足しました。現在は常勤医3名で日々の業務に専念しております。
悪性疾患から良性疾患まで幅広く、診断治療を担当しています。医療過疎が進む伊賀・名張地区において、当地区でできる治療はできる限り当地区で完結させることを目標に、高い専門性、技術力を保つべく日々研鑽を積んでおります。
消化器疾患とは
消化器内科が担当する臓器は非常に多岐にわたります。消化管(食道、胃、小腸、大腸)胆道、膵臓、肝臓疾患が対象となります。
悪性疾患については、診断⇒治療と進んでいきますが、診断においては各種画像検査(腹部エコー、CT、MRI、内視鏡)を実施します。特に近年、内視鏡検査が重要であり、早期消化管癌であった場合、以前であれば手術しなければならなかった治療が、
内視鏡で完結されることが可能となっています。治療についても、ガイドラインに沿った各種抗癌剤を実施します。またゲノム診断も重要で、当院は三重県がん診療連携病院の一つとして都道府県がん診療連携病院である三重大学病院と連携をとり、最新の治療を提供するように努めています。
良性疾患については、消化管では緊急処置が必要となることもある出血性潰瘍などから、炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎)など幅広く診察を行っています。 また急性膵炎、慢性膵炎、胆管炎、胆嚢炎などを緊急処置の必要な症例を幅広く診察を行っています。
上部消化管内視鏡検査
食道・胃・十二指腸を口もしくは鼻から内視鏡を挿入し、これらの部位の観察を行います。検査により、潰瘍、逆流性食道炎、癌など様々な疾患が診断されます。
健診などで行われている胃透視検査(バリウム検査)にくらべて直接病変を観察するため、一度で組織まで取得でき診断確定します。
希望の方には鎮静剤を使用し苦痛なく検査を受けて頂けます。(当日は自動車の運転は控えて頂きます。)
当日の朝のみ絶食で来院していただきます。お茶、水などは検査直前まで飲んでいただいて問題ありません。
下部消化管内視鏡検査
肛門から内視鏡を挿入し、大腸、小腸の一部を観察します。ポリープ、大腸癌のほか、クローン病、潰瘍性大腸炎など様々な疾患が疑われる際に実施します。小さいポリープであれば、検査時にポリペクトミーを実施します。(一定の条件がございます。)
上部内視鏡検査と同様に希望される方には鎮静剤を使用し実施します。
下部内視鏡検査については緊急時を除き、腸管内を空にしなければなりません。そのため前日夕から少し制限のある食事をしていただき、下剤を前夜から開始します。検査当日は朝ら絶食ですが、飲水(水、お茶、スポーツドリンクなど)は可能です。
小腸内視鏡
小腸は全消化管で一番長い臓器です。また口からも、肛門からも遠い場所に位置しており、未開の臓器と言われてきました。しかし近年、内視鏡の改良がなされ、徐々に直接の観察が可能となりました。当院ではシングルバルーン法を用いた小腸内視鏡検査が可能です。経口、経肛門からの小腸にアプローチを行います。
内視鏡的粘膜切除術(EMR)
上部消化管、下部消化管に発生するポリープ病変は、粘膜上皮から発生しますが、大きさが20㎜程度までのものがEMRの適応となります。
EMRは生理食塩水をポリープの粘膜下に注入し盛り上げたのちに、スネア(金属のループ状のワイヤー)をポリープにかけて高周波にて切除します。合併症には術後出血、穿孔(腸管に穴があくこと)などがあります。
EMRは通常1泊2日の入院で、病理結果については後日外来で行います。
内視鏡的粘膜下剥離術(ESD)
上部内視鏡検査もしくは下部内視鏡検査で食道、胃、大腸で認められた早期癌については、ESDの適応となります。
消化管壁は通常5層からなります。(図1)通常の癌はこの5層の中の粘膜上皮から発生をします。進行するにつれて、水平方向および垂直方向に進展していきますが、早期癌はこの粘膜層ならびに粘膜下層までに留まっている癌を指します。この粘膜層までに留まっている癌については、ESDが適応となります。
ESDのメリットは臓器切除による合併症がないことです。ESDの多くは食道、胃、大腸の早期癌に対して実施されますが、どの部位も切除することで多少の術後合併症を伴います。特に、食道、胃については大きな問題となります。ESDは臓器を切らず癌を完治させる手技であり、特に高齢者の方には大きなメリットとなりうる手技と考えられます。デメリットとしては、内視鏡で剥離するため、手術と違い臓器周囲のリンパ節切除などが出来ないことです。また手技に伴う偶発症として出血、穿孔(消化管に穴があく事)などが起こりえます。 ESDの適応となる範囲は現在徐々に拡大していますが、早期癌であることは変わりなく、進行癌は手術および化学療法などが中心となっています。そのため早期発見は非常に重要となります。
ESDは通常、4泊5日程度の入院が必要で、病理結果については後日外来で行います。
内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)
内視鏡検査で実施する中で、消化管(食道、胃、十二指腸、小腸、大腸)だけでなく、胆道、膵臓へも検査が実施されます。(図7)ERCPは胆膵系疾患に実施される検査・治療の一翼を担う方法です。特殊なスコープを使用して経口的に処置を実施します。胆管、膵管が消化管へ開口している部位は十二指腸乳頭部です。乳頭部までスコープを挿入し、カテーテル(細い管)を胆管もしくは膵管を造影します。造影によりX線上に胆管、膵管像が描出され、管内の形状(狭窄、拡張など)、結石の有無などを評価できます。また悪性疾患を疑う際には同時に胆汁や膵液などを採取することで癌などの診断を行います。処置にともなう合併症には、出血、穿孔(腸管に穴があくこと)、膵炎などがあります。
近年は検査のみで行うERCPは減少傾向にあります。この理由としては、胆管、膵管の形状の評価は他の検査(MRCP、CT、EUS)などである程度評価ができるようになりつつあるからです。しかし詳細な精査はERCPに劣り、また上記した胆汁、膵液などを採取することはCT,MRIではできず、これらを必要とする場合はリスクなどを考慮して実施されています。
スパイグラス胆道鏡
Spy Glass(TM)Dsは、ERCPにおける胆管精査・治療の際に使用する機材で、胆管内を直接内視鏡で観察することができます。胆管癌などの際には癌の進展度などを確認する際に用いられ、手術の切除範囲などの決定に役立ちます。また巨大総胆管結石においても用いられます。当院では伊賀・名張地域では初のスパイグラス導入施設です。
内視鏡的胆管、膵管ステント留置術
ERCPは検査を目的として実施されますが、ERCPの手技を応用した治療が盛んに行われています。その一つに内視鏡的ステント留置術があります。胆管、膵管はそれぞれ胆汁、膵液といった液体が管内を消化管側に向かって流れています。しかし、胆管、膵管が何らかの理由で狭窄することがあり、胆管狭窄では閉塞性黄疸による黄疸、胆管炎による発熱腹痛、膵管狭窄では膵炎による腹痛などといった症状が出現します。これらの治療に内視鏡的ステント留置術が有用です。
内視鏡的胆管結石除去術
ERCP関連手技の一つに、内視鏡的胆管結石除去術があります。総胆管に結石を認めることにより閉塞性黄疸、胆管炎などが出現します。症状としては腹痛や発熱を伴います。
ERCPと同様にスコープを十二指腸まで挿入し、胆管にガイドワイヤーを留置します。続いて、乳頭を切開し結石除去を行います。大きさ、結石の数によっては複数回実施することもあります。
電気水圧衝撃波胆管結石破砕術(EHL)
近年、高齢化にともない巨大総胆管結石の症例をしばしば経験します。
その際には、スパイグラスを用いたEHLを実施します。
通常のERCPと同様にスコープを挿入したのちに、スパイグラスを胆管内に挿入します。
巨大結石を視認した後に衝撃波を用いて巨大結石を破砕する方法です。
これらERCPおよびERCP関連手技については入院の上で実施します。入院は約5日前後必要となります。上記した偶発症の発生によっては、場合により入院期間の延長が必要となることもあります。
超音波内視鏡検査(EUS)
EUSは、胃カメラの先端に超音波装置が装着されたスコープを使用し、胃内および十二指腸内から膵臓、胆管、胆嚢を観察する検査です。膵癌は、全悪性疾患の中でも一番の予後の悪い悪性疾患であります。この理由の一つに、通常の腹部エコー等では発見しにくいという問題があります。腹部エコーが難しい理由に、膵臓は後腹膜臓器に位置する臓器で、体表のエコーでは膵の前面(腹側)に消化管(胃、大腸)などがあり観察が困難となります。EUSは消化管内から観察することでより詳細に検査することができます。
検査の合併症として、出血、穿孔(腸管に穴があくこと)などが想定されます。
EUSは外来で行いますが、全例鎮静下(静脈麻酔)で行うため、当日の運転は控えていただきますが外来での実施は可能です。当日は上部内視鏡検査と同様、朝から絶食が基本となりますが、飲水は可能です。
EUS下針生検(EUS-FNA)
もし悪性腫瘍を疑う所見が認められた時には、EUSを用いて組織採取を行うことも可能です。EUS-FNAは消化管外にある膵やリンパ節などを注射針程度の太さの特殊な針を用いて穿刺し組織を採取することで病理的に診断確定します。EUS―FNAについては1泊の入院が必要です。合併症として、出血、穿孔(腸管に穴があくこと)、膵炎などが報告されていますが、比較的安全に行われる手技です。
EUS下胆管ドレナージ術(EUS-BD)
胆管癌、膵癌などが進行すると、胆管が閉塞をきたします。胆管閉塞により閉塞性黄疸、胆管炎などを引き起こします。通常、これらの治療には内視鏡的胆管ドレナージ術(EBS)が実施されますが、EBSが腫瘍による消化管閉塞や術後腸管など様々な事由により困難な症例があります。EBSが困難な症例では以前は経皮経肝胆管ドレナージ術(PTBD)が実施されましたが、外瘻(肝臓から体の外にチューブをつないだ状態)を常につけている状態となりました。これでは癌患者のQOL(生活の質)が非常に落ちてしまいます。
そのため、近年EUSを用いたEUS-BDが実施されています。EUS-BDは一期的にチューブを内瘻化(肝臓からのチューブを体の内に留置すること)できることで、癌患者におけるQOLを維持することができます。
EUS-BDにはいくつかのアプローチ方法があります。
1.胃・胆管瘻孔形成術(EUS-HGS)
肝内胆管と胃にEUSを用いて、瘻孔を形成する手技です。
2.十二指腸・胆管瘻孔形成術(EUS-CDS)
総胆管と十二指腸にEUSを用いて、瘻孔を形成する手技です。
EUS-BDに伴う合併症には、出血、穿孔(腸管に穴があくこと)、胆汁瘻による腹膜炎などが見られます。場合によっては緊急手術が必要となることもあります。
EUS-BDは難易度の高い手技となっておりますが、当院では大学病院で十分に経験を積んだ医師が担当しており、三重県下では有数の実施施設となっています。
急性胆嚢炎
急性胆嚢炎には通常、早期の胆嚢摘出術が基本治療となっています。しかし、高齢化が進み、基礎疾患(脳梗塞後、心筋梗塞後、認知症、癌患者など)をお持ちで手術の耐術能がない場合があります。その場合、胆嚢ドレナージ術が選択されますが、胆嚢ドレナージ術にはいくつかの方法があります。
1.経皮経肝胆嚢ドレナージ術(PTGBD)
胆嚢に対して経皮的に肝臓を介して胆嚢を穿刺、ステント留置する方法です。ステントは対外にでますが、通常10日前後で癒着するためその後ステントを抜去します。それまでは24時間体外にステントがでた状態となります。合併症は、ステント逸脱による腹膜炎、出血、消化管穿孔などがあります。
またPTGBDは胆嚢炎の再発率が20-50%程度とされており、再発率の高さが問題となっています。
2.経乳頭的胆嚢ドレナージ術(ETGBD)
ERCPと同様のスコープを使用して実施します。総胆管、胆嚢管とガイドワイヤーを通して、胆嚢内にステントを留置することでドレナージを行います。
ETGBDは手技成功率が60%~80%程度と比較的難しい手技ですが、成功することでPTGBDと違い一期的にステントを内瘻化することができ、患者ADL維持には効果的です。ただし、ERCPと同様に合併症は出血、穿孔、急性膵炎などがあり、注意が必要です。
3.超音波内視鏡下胆嚢ドレナージ術(EUS-GBD)
近年、上記したEUS-FNAの技術の応用したEUS-GBDの有用性が報告されています。EUS-GBDは胃もしくは十二指腸からEUSを用いて観察し最適な部位から穿刺、ステント留置を行います。一期的に内瘻化でき、患者ADLを落とさずに行うことができます。
当院での成功率は95%を超えており、比較的良好な成績です。合併症は出血、穿孔、腹膜炎などがあります。しかしETGBDでは危惧される、急性膵炎は基本的には認めません。EUS-GBDは比較的新しい手技であり、当院では倫理委員会の審査の下、実施しております。当院は全国でも有数のEUS-GBD実施施設です。